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椹野 道流
講談社
(2008-07-15)
コメント:法医学教室オカルトファイルこと鬼籍通覧シリーズ
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昨年から続いていた自主的椹野先生祭の一環、鬼籍通覧シリーズです。
法医学ものでオカルトで一般書です。
講談社ノベルス版、ホワイトハート版、講談社文庫版があります。
お薦めは山田ユギ先生のイラストがつくホワイトハート版。(※現在絶版)
O医科大学の法医学教室に院生として加わった伊月を中心に、伊月の昔馴染みの友人で高槻署刑事の筧、法医学教室助手にして伊月の姉貴分・ミチルの三人が、解剖案件にまつわる謎を解くお話です。
法医学者の仕事は遺体から死因を究明すること。
犯人や殺人トリックを明らかにすることが目的ではありません。
故に、死因は明らかになっても犯人はオカルトオチ…というのもあって、肩すかし感を感じてしまうこともあるかも。
正直、私は1巻「暁天の星」と3巻「壺中の天」は最初「ええ…死因はわかったけど、犯人や遺体の消えたトリックは超常現象でしたオチじゃん!」と思いました。
でも、作中でミチルさんが口をすっぱくして言うように、法医学者の仕事は遺体の死因究明なのです。
犯人やトリックの推理は彼らの仕事ではない、というのを頭に入れて読むようになったら、4巻からは気にならなくなりました。
4・5巻はオカルト要素も薄まるし。
椹野作品の中ではデビュー作の奇談シリーズに次いで古いシリーズなので、椹野先生十八番のキャラのかけあいと料理談義もばっちり出て来ます。
椹野先生のキャラのかけあいが好きな人は楽しめるはず。
そして何よりがっつり法医学の現場が描写されているので、普段縁のない法医学の世界を覗き見ているような感覚が楽しめます。
…楽しめると言っても、解剖描写(とくに遺体の状態描写)は苦手な人は苦手かもしれません。
私はグロ描写が苦手な質ですが、鬼籍の解剖描写はなんとか読めます。
行政解剖と司法解剖の違いなんて鬼籍通覧読むまで知らなかった世界です。(行政解剖と司法解剖の違いは鬼籍通覧4巻に詳しく語られています)
病理解剖と司法解剖の違いはなんとなく知ってた。
そしてドラマ等では華々しく描かれている(ように見える)法医学教室が、実は人材不足で、臨床と違って給料が安くて、しかもひたすら地味で大変な仕事であることは椹野先生の鬼籍と
メス花(※BL)を読んで知りました。
興味を持ったついでに調べたら、私の出身県は法医学者の先生が1人しかいませんでした。
(一応)人口300万人の県内でおきる事件・事故の司法解剖を1人でやらなきゃいけないとか、どれだけ人材不足な世界か推して知るべし。
キャラクターは派手なルックスで朝が弱い反面気骨のある新人・伊月と彼を見守る姉貴分のミチルさん、穏やかだけど頼りになる関西弁刑事の筧の三人が主役です。
基本、伊月が主人公なのですが、結構ミチルさんも冒険します。
そんな三人を見守りつつ、大事なところでは釘を刺すのを忘れない都築教授。
3巻から登場する奇談シリーズでもお馴染みの兵庫県監察医・龍村先生等脇キャラも賑やか。
特に奇談シリーズでは気のいい陽気な兄ちゃんな龍村先生が、鬼籍ではベテラン監察医として伊月の師匠になります。
奇談の敏生に対する甘やかしぶりはどこ?ってくらいに、同業の弟子の伊月には厳しいです。
その反面法医学の分野では龍村先生はベテランなので、奇談の対オカルトでは一般人な龍村先生より、かっこいい龍村先生が拝めます。
作者のツイッターを見る限り、奇談の龍村先生にはしばらく会えそうもないので、鬼籍の龍村先生でしのごう。
どんな事件にもやりきれなさがあり、事件・事故での死に接する法医学者の登場人物たちがどう考えて行動していくのか、に接する話だと思います。
私はホワイトハート版の5巻までしかまだ読んでいなのですが、ゆっくり以下続刊しているので、たまに彼らに会いたいと思います。